医師と患者さんで考える 新しい時代のCML治療(2023年11月29日開催)
講演
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慢性骨髄性白血病(CML)の情報サイト
講演
髙橋直人先生に、最近のCMLの治療目標について講演いただきました。
髙橋 直人 先生
(秋田大学大学院医学系研究科 血液・腎臓・膠原病内科学講座 教授)
慢性骨髄性白血病(CML)は血液細胞のもととなる造血幹細胞ががん化し、骨髄(血液をつくる工場)の中で増殖する病気です。CMLは、元は別の場所にあったBCRという遺伝子とABL1という遺伝子が合わさり(融合)、新しくつくられたBCR::ABL1遺伝子という異常な遺伝子が原因となって引き起こされることが1990年にわかりました。
そして2001年には、このBCR::ABL1遺伝子を設計図としてつくられるBCR::ABL1というタンパク質を標的とした薬(分子標的治療薬)が登場しました。CMLの治療で用いられる分子標的治療薬は、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)という種類に属しています。
TKIが登場する以前はCMLの治療にはインターフェロンや骨髄移植などが用いられていました。TKIが登場したことでCMLの治療成績は向上し、現在では、適切な治療を行えば、CMLに罹患していない同年代の人と同程度の余命が得られるようになりました。
TKIは最近まで、CMLが進行しないように、生涯にわたり服用し続ける必要があると言われていました。ところが、長期にわたって十分な効果が持続している患者さんでは、服用を止められるのではないかと考えた研究グループがありました。最初に研究を行ったのはフランスのMahon先生のグループです。その後、同じような研究が国内外で数多く行われ、TKI中止前に深い分子遺伝学的奏効(DMR)が持続していた患者さんでは、TKIを中止しても再発しない可能性があることがわかりました。
TKIを服用せずにDMRが維持される状態は“治癒”に近いと考えられ、無治療寛解(TFR)と呼ばれています。治療を行いながら長期の生存を目指す時代から、最近は一部の患者さんでTFRを目指せるようになってきました。
TKIの中止に関して、これまでの日本の診療ガイドライン(2018年版補訂版)では「臨床試験以外では中止しないでください」と書かれていました。しかし、2023年に改訂版が発刊され、特定の患者さんでは、日常診療でもTKIの中止を考慮してもよいという内容に変更されました[1]。図1に示したように、DMRが得られた患者さんのなかで、妊娠を望んでいる若い女性、晩期副作用(治療開始後、時間が経ってから出現する副作用)のためにTKIの服用を続けることが難しいなどの理由がある場合、あるいは“一定の条件”を満たした場合などです。ただし、TKIの中止後も定期的に受診してBCR::ABL1の量を測定する検査(モニタリング)を行う必要があるとされています。それでは“一定の条件”とはどのような条件なのか、次項でご紹介します。
日本血液学会編: 造血器腫瘍診療ガイドライン2023 年版, 東京, 金原出版, 2023 を参考に作図
TFRを目指して、日常診療でTKIを中止するために必要な条件として、前述の診療ガイドラインでは図2に示した7つの項目があげられています[1]。まず、小児ではTKIを中止した経験が少ないため、18歳以上が対象となります。過去に、移行期や急性転化期に進行したことがある患者さんは、TKI中止後に再発などのリスクが高くなるため試みることができません。また、TKIによる治療を3年以上行っており、そのうちの2年以上はDMRを維持していることが必要です。いろいろな研究が行われた結果、TKIの服用期間が長いほど、またDMRの持続期間が長いほど、TKIの中止後に再発するリスクが低いことがわかってきたためです。DMRとは、日本の診療ガイドラインではMR4.5よりも深い奏効を指します。5番目にあげられている高感度の(精密な)PCR検査は、日本の医療機関であればどこでも行うことができます。
6番目の検査スケジュールはとても重要です。TKIを中止して最初の6ヵ月は毎月、次の6ヵ月は2ヵ月に1回、その後は3ヵ月に1回、前述のBCR::ABL1遺伝子の量を検査し、再発していないかどうかを確認します。またMMRを失ったら、必ずTKIの治療を再開し、もう一度MMRを達成するまでは毎月検査を行います。
TFRを目指すにはDMRを達成し、それを長く維持する必要があります。1ヵ月に3回以上飲み忘れてしまうと、DMRを達成できる確率が低くなるというデータも報告されていますので[2]、まずはTKIの服用をしっかり継続することが大切です。
このように服用の継続は重要ですが、お薬との相性の問題もあります。現在、CMLでは複数のお薬がありますので、副作用などのために服用を継続するのが難しい場合は主治医にご相談ください。また、すべての患者さんがTFRを目指すべきというわけではありませんので、主治医と相談して、患者さんごとにライフスタイルに合わせた治療目標を設定しましょう。
髙橋直人先生ご提供
日本血液学会編: 造血器腫瘍診療ガイドライン2023 年版, 東京, 金原出版, 2023 を参考に作図
日本血液学会編: 造血器腫瘍診療ガイドライン2023 年版, 東京, 金原出版, 2023
Marin D et al.: J Clin Oncol. 2010; 28: 2381-2388