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慢性骨髄性白血病(CML)の情報サイト

監修:
藤澤 信先生
(横浜市立大学附属市民総合医療センター 血液内科)

近年、CMLについての研究が進み、病気の仕組みがわかってきた結果、腫瘍細胞の特徴を利用した新しい治療薬が次々に開発されました。現在の標準的な治療法は分子標的治療薬を服用することですが、このコーナーでは、これまでの治療の変遷を振り返り今後の展望についてまとめています。

「白血病」の確立と原因の発見

白血病という病気は、古代ギリシア時代の記録があることから、すでに存在していたことがわかっています。初めて白血病と思われる患者さんを診た医師が正確な記録を残したのは19世紀に入ってからで、当時白血病はがんというよりも血液が化膿した病気だと思われていたようです。
白血病という概念を明確化したのはドイツの病理学者でした。彼は、白血病を血液の化膿とは考えず、1845年に脾臓が腫れ血液が白くなって死亡した患者さんについて「白い血の病気」として報告しました。これが「白血病」の語源とされています。
1960年頃になると、遺伝子の染色体を分析する方法が開発されるようになり、白血病の研究にも応用されました。1960年、フィラデルフィアにあるペンシルベニア大学の研究者がCMLの患者さんに、断片化した小さな染色体があることを発見しました。その異常な染色体は発見地にちなんで「フィラデルフィア染色体」と名づけられました。その後、このフィラデルフィア染色体についてさらに研究が進み、9番(ABL1遺伝子が存在する)と22番(BCR遺伝子が存在する)の染色体が途中から入れ替わってつながっていることや、1980年代には、フィラデルフィア染色体上にあるBCR::ABL1遺伝子がCMLの原因であることが判明しました(図)。

「白血病」の確立と原因の発見

CML治療の歴史

1960年代は化学療法で血球数のコントロールをしていましたが、CMLの進行を遅らせることは難しいものでした。1970年代には、CMLを唯一治癒させる可能性がある療法として移植療法が登場しましたが、ドナーの有無などさまざまな条件があり全員が治療を受けられるわけではありませんでした。また、移植後には感染症や拒絶反応などのリスクもありました。その後1980年代にインターフェロン-αが登場しました。一部の患者さんには高い効果が示されたのですが、多くの場合、白血病細胞を十分に減らすことができずに、病気が進行してしまいました。
そして2001年、CMLの原因であるフィラデルフィア染色体のBCR::ABL1遺伝子が作り出すBCR::ABL1蛋白を標的とする「分子標的治療薬」が登場し、治療成績が劇的に向上しました。それでも効果が不十分であったり、副作用のために治療を続けられない患者さんがいることがわかりました。そこで、そのような患者さんのために「第二世代の分子標的治療薬」が開発され、2009年にはわが国でも使えるようになりました。その後2014年、2016年にも新たな分子標的治療薬が承認され、今では分子標的治療薬がCMLの標準的な治療法となりました。CML患者さんの予後は大きく改善しています(図)。

CMLの年代別生存率

CMLの年代別生存率

現在のCML治療

CMLはかつて治療が非常に難しい病気のひとつでしたが、2001年の分子標的治療薬の登場で、CMLの治療はがらりと変わりました。分子標的治療薬とは、病気の原因となっている場所や物質をターゲット(標的)にしてその働きを止めてしまうものです(動画でわかるCML治療 CMLの治療法)。CMLの分子標的治療薬はCMLの原因となっているBCR::ABL1蛋白の働きを抑える薬で(図)、「チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)」といいます。
2024年4月現在、わが国で認められている分子標的治療薬(TKI)は6種類あり、そのうちの2種類は、他のTKIが効かない、あるいは副作用が強くて使えない場合に限って服用することができる薬です。それぞれの薬には特徴がありますので、患者さんの年齢や生活状況、合併症、他に飲んでいる薬などを考慮して、主治医と服用する薬を決めていきます。
薬の副作用が現れたり、効き目が不十分な場合は、他のTKIが有効な場合がありますので、切り替えて治療を続けていきます。また、薬が効いている場合でも服用をやめてしまうと白血病細胞が増えてくる可能性が否定できませんので、薬は原則として生涯飲み続けることになります。

分子標的治療薬による治療イメージ

分子標的治療薬の服用中止への試み

TKIは、慢性期のCMLに対して高い効果を示す一方で、白血病細胞の元になる細胞を駆逐することはないと考えられていたため、服用を中止することはできないとされてきました。
しかし最近、TKIを継続して服用し、分子遺伝学的に深い奏効の状態を一定期間維持している患者さんの中には、TKI服用を中止しても、分子遺伝学的再発がみられない(無治療寛解:TFR)場合があることが報告されています。また、TKIの服用中止後に分子遺伝学的再発がみられた場合でも、再びTKIを服用することでほとんどの患者さんが分子遺伝学的に深い奏効の状態に戻ることも報告されています。
※治療に関する詳細は、主治医に相談してください。

医師のイメージ

今後の展望

CMLは分子標的治療薬のひとつである「TKI」の登場によって、がんのなかでも治療成績がもっとも良いもののひとつになりました。そして、生涯にわたり服用し続けなければいけない「TKI」も、今後はある条件を満たせば服用を中止できる可能性も出てきました。
造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版では、「妊娠を望む若い女性や晩期副作用のためにTKI継続が困難などの理由がある場合、あるいはDMRが得られた患者の中で一定の条件を満たした場合は、定期的なモニタリングを条件にTKI中止を考慮することができる。臨床試験外で中止を試みる場合は、血液専門医による日本血液学会のJ-SKIに登録を推奨する。」[1]と記載されており、妊娠を望む場合には、定期的なモニタリングを条件にTKI中止を考慮しても良いとされています。
さらに将来的な課題として、分子遺伝学的奏効に至らない場合や、分子遺伝学的に深い奏効を達成し維持できた後の服用中止後TFRに至らなかった場合のさらなる治療法の開発も残されています。すべてのCML患者さんが治療により「治癒」する時代が来ることが待たれるところです。

家族で犬と遊ぶイメージ
  1. 日本血液学会編, 造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版, 金原出版, 2023, p.119