早期の療育が子どもの発達によい影響を与えているようです
- I君/胎児のときに診断され、現在5歳(2012年11月時点)
- インタビューに応じてくださったのは、母Kさん
◆診断のきっかけは胎児のときの心エコーです
診断は、妊娠30週ぐらいの胎児期です。妊娠25週ごろ、当時通っていた産婦人科のクリニックで、胎児の心臓の異常が発見され、総合病院の産婦人科に紹介されました。そこで詳しい検査をして、胎児に心横紋筋腫と脳の結節がみつかり、結節性硬化症と診断されるきっかけになりました。
最初に病気のことを聞かされた時は、「結節性硬化症はいろいろなところに腫瘍ができる病気ですが、脳や腎臓など重要な臓器にできる腫瘍のため、手術はあまりおこないません」という説明で、よく分からなかったので、診断を受けた帰りに書店に立ち寄り医学書で調べると、典型的な3つの症状は「精神発達遅延、てんかん、白斑 *1」と書いてあり、ショックを受けました。
*1 「顔面の血管線維腫」と記載されていることもあります。
胎児のときに結節性硬化症の可能性を知らされたので、このまま産んでよいのだろうかと悩みました。私たち夫婦にとって第一子ということもあり、子どもという存在や子育てそのものが未知のものだったために余計に不安でした。そこで、病気のことをもっと詳しく知りたいと思い、総合病院の産婦人科の医師に、結節性硬化症の診療経験が豊富な同じ病院の神経内科の医師を紹介してもらい病気の説明を聞きました。そのほか、インターネットでさまざまなウェブサイトや個人の方が書いているブログなども調べました。
◆てんかん発作にはいろいろなタイプがあるのですね
生後5日目に、手足をぴくぴくするけいれん発作がおこりました。NICUにいましたのですぐに検査していただくことができ、抗てんかん薬の服用が始まりました。幸いお薬の効果によりその後けいれんは見られずNICUを1ヵ月弱で退院しましたが、生後4ヵ月ごろから、以前の手足のぴくぴくした動きとは違う何か異常な動きを時折するようになりました。主治医に話をしたのですが口頭ではうまく伝わらず、ビデオに撮った息子の様子により、点頭てんかん(West症候群)と診断されました。
点頭てんかんの典型的な症状として「頭をかくんと垂れて、前にかがむような仕草」とよく言われますが、息子の場合、手をグーッと延ばすような動きでしたので、それが点頭てんかんの症状であるということは最初気が付きませんでした。最近は海外の方がYou tubeなどに発作の様子をビデオで載せていたりするので、今であればそれが点頭てんかんの症状だと気が付いたかもしれません。点頭てんかんの発作が抑えられないと知的障がいが重症になるという情報もあったので、点頭てんかんだと信じたくない気持ちもありました。発作はいつ起こるか予測できず、また1回の発作時間が短かったためにビデオを撮るタイミングを何度か逃し、発作を撮影し医師に見せるまでに少し時間がかかりました。
現在は、てんかんをお薬でコントロールできています。てんかん発作をおさえるためのお薬の調節に大変さを感じていらっしゃるご家族も多いと聞きますが、うちは幸運にもお薬の調整の大変さはそれほどありませんでした。
◆早期の療育が子どもの発達によい影響を与えているようです
点頭てんかんは予後がよくないと聞いていたため、できるだけ早く専門的な療育 *2を受けたいと思い、それを小児神経内科の主治医に伝えたところ、地域の発達支援施設を紹介されました。
そこで、1歳頃から療育OT(作業療法)*3や療育PT(理学療法)*4を始めました。地域の発達支援施設の指導は月に1回程度しかなく、それで十分な療育といえるのか不安だったため、地域の発達支援施設から紹介された民間の発達支援施設にも通うようになりました。
今は、月1回の地域の発達支援施設での個別指導のほか、4歳の春から通い始めた2年保育の幼稚園と民間の発達支援施設に、週に半分ずつ通っています。専門家の指導とともに、同年代のお友達と過ごす時間は、子どもの発達と成長には欠かすことができないと感じています。
*2 療育:病弱児や障がい児に対して、治療・保育・教育が総合的におこなわれるものです。
*3 OT(作業療法):精神や身体に障がいのある人が主体的な生活を送ることができるように、日常生活の動作や遊びなどを通じて運動機能や維持、発達などを促すためにおこなわれる治療や支援です。
*4 PT(理学療法):病気、けが、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人に対し、日常生活動作の改善やQOL(生活の質)の向上、運動機能の維持や改善を目的に、運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いておこなわれる治療や支援です。
◆定期的に検査をして、治療の時期を主治医と相談しています
現在は、定期的に小児神経内科に通院しています。脳波、脳のCT検査のほか、循環器科で心臓、眼科で網膜を1年ごとに定期的に検査しています。総合病院に通院しているため、1つの病院で全身を検査可能な点や、カルテや画像データをすぐに主治医に確認していただけるという点が安心です。
昨年、エコー検査で腎臓に30mm超の腫瘍が見つかりました。だんだん大きくなってきているので、治療するかどうかを主治医と相談しています。手術を選択するか、新しいお薬が使えるのかが気になっています。
◆その子どもなりの成長を喜ぶ視点が大切ではないでしょうか
診断された直後は、「何が起こったんだろう?」と混乱して、とても不安でした。
この病気はすべての症状があらわれるかどうか分からない、知的障がいがあるかどうか分からない、というところがかえって親の心をかき乱すのだと思います。
ただ、知的障がいがあってもなくても、どんな子どもも「育てたように子どもは育つ」のだと感じていますので、病気かどうかに惑わされず、子どもの個性を大事にしてやりたいと思い接しています。子どもはやはり可愛いですし、「彼」の性格がとても好きです。
幼稚園では、お友達の喧嘩の仲裁をしたり、お弁当を食べ終わらない子の肩を叩いて応援したり、変な顔を披露して先生やお友達を笑わせようとしたりという様子を見せているようです。恐れていた知的な遅れのイメージとは違い、たくさんのことを感じたり、学んだりしながら成長している様子が癒しになっています。
通院している病院で、同じ結節性硬化症の子どものいるお母さんに出会う機会があり、「結局は本人の問題だから」という言葉をかけられたことを今でも覚えています。その視点は常に持っておきたいと考えています。病気と闘い、また病気を受け入れ、病気と共に一生懸命生きているのは本人です。診断されたばかりのご家族は、不安な気持ちを抱えていらっしゃると思いますが、その子どもなりの成長を喜ぶという視点をもつことが大切ではないでしょうか。
◆疾患に関するQ&A
Q.歯のエナメル質の多発性小孔はどういう症状なのでしょうか。
歯のエナメル質の異常は、結節性硬化症患者の大半に起こっているということを聞きますが、あまりこの症状に関する情報がありません。日本皮膚科学会の『結節性硬化症の診断基準および治療ガイドライン」に「歯エナメル質の多発性小腔」という記述がありますが、「多発性小腔」という専門用語ではよく分かりません。
医師の側からみれば小さな症状かもしれないものの、患者や家族にとって、いざ歯科治療を受けなければならなくなると、本当に大変です。歯科の診察台にあがること、じっとして治療を受けること、器具を口に入れられること、音や振動や痛みに耐えることは、特に知的障がいや自閉傾向がある場合には、非常に難しいことだからです。
治療を必要とする状態に至らないようにするには、どのようなケアが大切なのでしょうか。
A.結節性硬化症の歯のエナメルピット(歯エナメル質の多発性小孔)について
大野耕策先生からのご回答
結節性硬化症の患者さんの歯では、一部エナメル質が欠損し、歯の表面に直径0.1mm程度の穴(エナメルピット)が肉眼で見られることが知られています。拡大鏡で見ないとわからないようなもっと小さな穴(0.004~0.06mm)がたくさんあることも知られています。アメリカの結節性硬化症連合(Tuberous Sclerosis Alliance)のウェブサイトに掲載されている写真をご覧ください(https://www.tsalliance.org/about-tsc/signs-and-symptoms-of-tsc/teeth/)。歯垢を染めるピンクの色素を塗って拭き取った後の写真ですが、歯垢が小孔に残っていてエナメルピットが見えやすくなっています。
エナメルピットは多くの結節性硬化症患者さんで見られます。この異常は乳歯でも見られますが、乳歯では小さい径の穴のことが多いようです。原因は、エナメル芽細胞(ameloblast)の機能異常によってエナメル質の形成が障害されると考えられています。したがって、穴は象牙質(歯の表面のエナメル質の下にあるエナメル質より柔らかい歯の主体をなす硬組織)との境界部まであいており、ここに食べ物のかすや歯垢がたまることによってさらに大きな空洞になっていき、齲歯(〔くし・うし〕、虫歯)が進行します。歯磨きをしっかりおこない、定期的な歯科健診を受けることが必要です。
※症状や効果のあるお薬などは個人差があります。ここに記載されている治療や日常生活は、医療上のアドバイスや指示を与える意図をもって提供されるものではありません。必ず主治医と相談の上、治療をおこなってください。