用語解説 ~診察室で耳にする用語~
骨シンチグラフィ
症状があって骨転移が疑われる場合に実施する検査です。全身の骨を1度に調べることができます。骨シンチグラフィは、わずかな骨転移でも診断することができますが、骨転移とは関係のない骨折や変性(骨がすり減るような状態)でも異常として現れます。
PET、PET-CT
症状や検査値の異常があって、全身転移が疑われる場合に実施する検査です。骨シンチグラフィと同様に全身の骨を調べることもできます。PETやPET-CTでは骨転移以外のがん病巣も診断できるメリットがあります。一方、骨転移のタイプによっては、骨シンチグラフィの方が優れる場合があります。
MRI
脳や脊髄などへの転移が疑われる場合に実施することが多い検査です。骨転移の部位や範囲を診断することもできます。脊椎の転移による神経圧迫の場合にも有力な検査方法です。骨シンチグラフィよりも小さな転移を診断することができますが、全身を1度に検査することはできません。
CT
がんの広がり(大きさ・位置・数)、リンパ節や他の臓器への転移がないかを調べる検査です。造影剤を使用することにより、血管や各臓器の血液の流れを調べることができ、より多くの情報を得ることができます。検査時間が短いため、体への負担が軽いです。
血液検査
血清中のカルシウム値が5.0mg/dL(または10.0mEq/L)以上の場合は、高カルシウム血症と診断します。骨転移がある場合、骨に含まれるコラーゲンが分解され血液中に流れ出すため、骨のコラーゲンの分解産物である1CTP(腫瘍マーカーの一種)として測定することができます。その他、アルカリフォスファターゼ(ALP)なども高い値を示すことがあります。
腫瘍マーカー
乳がんの腫瘍マーカーは、再発したり全身に広がった乳がんに対して、治療が効いたかどうかを判断するために、よい指標となることがあります。また、血液を調べるだけで簡単に検査できるので、再発の治療中は、定期的に検査をして、治療効果を確認したり次の治療を検討したりする際に参考にします。なお、腫瘍マーカーの数値の高低にも意味があるものではなく、高いからといって何かが悪いということを示しているわけではなく、あくまでも変動をみて治療の効果や病状の変化を知るためのものです。
ポート
抗がん剤治療で使う薬は、飲み薬と点滴に分かれます。点滴による治療では腕の静脈に注射針を刺して薬を投与します。点滴回数は初期治療の手術前や後の場合には4〜30回、遠隔転移の場合にはより長時間にわたり点滴が必要になることがあります。
抗がん剤の投与を腕の静脈から何度か行っていくうちに、血管が傷つき、血管に針が入りにくくなることがあります。これらを防ぐために鎖骨付近や上腕などからチューブ(カテーテル)を心臓近くの静脈に入れて、チューブ先端の薬の注入口を皮下に埋め込む方法があります。このカテーテルと薬の注入口本体をポートといい、ポートを埋め込む手術には局所麻酔で約30分〜1時間程度の時間がかかります。
脳転移に対する放射線治療
放射線のかけ方には大きく分けて2通りあります。1つは全脳照射といって、脳全体に放射線をかける方法、もう1つは定位放射線照射といって、病巣のみに放射線をかける方法です。
全脳照射の方法
脳全体に放射線を照射します。1回3グレイ×10回の計30グレイを2週間で行うのが最も一般的でしたが、神経の副作用を軽くするために1回2.5グレイ×15回の計37.5グレイを3週間で行う方法も採用されています。ほかにも、1回2グレイ×10回の計20グレイ、1回4グレイ×5回の計20グレイ、1回2グレイ×25回の計50グレ イなどさまざまな方法があります。
定位放射線照射
定位放射線照射は病巣のみに的を絞って放射線を照射します。照射する装置にはガンマナイフ、リニアックナイフ、サイバーナイフ、ノバリスなどさまざまなものがありますが、放射線を出す方法が違うだけなので、用いる装置によって治療成績に差があるわけではありません。定位放射線照射は、通常1〜5回程度の照射治療です。短期間の入院で治療を行う病院が多いようです。
緩和ケア
乳がんになったことで患者さんとその家族は、さまざまな苦痛や問題を抱えます。それは単に痛みといった身体的な症状だけでなく、不安や落ち込んだ気分、女性としての精神的なつらさ、日々の生活で生じる社会経済的な問題、そしてスピリチュアルな問題(スピリチュアルは日本語で霊的・魂と訳しますが、その人自身の人生の意味や生きる意味などに相当します)などです。
緩和ケアとは、こうした身体的な苦痛や気持ちのつらさなどを少しでも和らげるための対処を行い、患者さんあるいはその家族も含めて援助することです。そして、QOL(生活の質あるいは生き方の質)を保つことで、自分らしく過ごしていただくことを目的としています。
緩和ケアは病気の状態や時期に関係なく、診断された早期から療養の経過を通じて、その人らしい生活が保てるよう医学的な側面ばかりでなく、さまざまな援助をします。
緩和ケアのチーム医療
治療中は、痛みや苦しみなど、いろいろな症状が出ることがあります。これらの症状を和らげるためには、専門的なケアが必要とされ、「緩和ケア」と呼ばれています。緩和ケアは、以前は「終末期に提供されるケア」とされた時期があったため、がんの治療ができなくなった人のための最後の医療・ケアと誤解されがちでしたが、現在は「がん治療の早期から並行して始めるケア」というように考え方が変わりました。一般病院でも緩和ケアチームという多職種の医療スタッフ(医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーら)がかかわることによって、症状緩和を行うようになってきたので、これらの専門家の力を借りるのもよいことだと思います。
痛みの治療
がんの痛みの治療には、ロキソプロフェンやジクロフェナクなどの消炎鎮痛薬(NSAIDs)や、アセトアミノフェンなど、オピオイドと呼ばれる医療用麻薬を使います。麻薬と聞くと、中毒になるのでは? 幻覚や幻聴が出るのでは? さらに痛みが増したときに使う薬がなくなってしまうのでは? など、いろいろな不安があるかもしれませんが、これらはすべて間違いです。“医療用の”麻薬ではこのようなことは起こらず、効果的に痛みを取りのぞくためだけの薬です。抗がん剤や手術、放射線療法などが、がんを治療するのに必要な「治療」であるのと同様に、医療用の麻薬はがんの痛みを治療するのに必要な薬です。
サイコオンコロジー
サイコオンコロジー(Psycho-Oncology) は、「心」の研究を行う心理学(サイコロジー=Psychology)と「がん」の研究をする腫瘍学(オンコロジー=Oncology)を組み合わせた造語で、「精神腫瘍学」と訳され、1980年代に確立した新しい学問です。治療を続ける上で患者さんを悩ます不眠や不安、気分の落ち込みに対して、精神医学的な治療を含めたサポートを用意し、ストレスを和らげ、QOL(生活の質)が向上するための最善の治療を受けられるようにサポートを提供します。
参考文献:「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」2014年版(日本乳癌学会編) 金原出版株式会社
日本サイコオンコロジー学会
国立がん研究センターがん対策情報センター
がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/index.html