PNH患者さんと医師との座談会(前編)
ー PNHの症状と日常生活への影響 ー
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PNH:発作性夜間ヘモグロビン尿症との生活の情報サイト
ー PNHの症状と日常生活への影響 ー
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、日本国内の患者数が1,035人とされる、まれな病気です。赤血球が壊されてしまう病気ですが、その症状は幅広く、患者さんによって様々です。今回は4名のPNH患者さんとPNHの専門医である筑波大学の小原 直先生に参加いただき、PNHの症状とその症状が日常生活に及ぼす影響について話し合っていただきました。
開催日:2024年8月24日(土)
開催場所:TKPガーデンシティPREMIUM東京駅丸の内中央
参加者:
▼医師
小原 直先生:筑波大学医学医療系 臨床医学域 医療科学(血液学)
▼PNH患者さん
Aさん:女性/73歳、PNHと診断されて23年
Bさん:女性/59歳、PNHと診断されて39年
Cさん:女性/47歳、PNHと診断されて21年
Dさん:女性/32歳、PNHと診断されて8年
司会
本日はお集まりいただきありがとうございます。それでは早速ですが、皆さんがPNHと診断された時の状況を教えてください。
Aさん
最初は、ただの風邪だと思っていたのですが、なかなか治らず、しんどさも普通ではなかったため大きい病院を受診したところ、急性腎不全と診断されたのがきっかけでした。透析を受けて、腎不全は回復したのですが、いろいろと検査を進めていく中で、PNHと診断されました。
Bさん
私は、就職後に動悸や息切れなどの症状がひどくなり始め、不安になり病院を受診したところ再生不良性貧血と診断されました。2年ほど入退院を繰り返していたのですが、症状は改善せず、大学病院に転院してPNHと診断されました。
Cさん
最初は、旅行やアルバイトなど、少し活動的なことをすると、肌の調子が悪くなる程度でした。しかし、徐々に症状が強くなり、唇などはリップクリームを何度塗っても皮が剥がれるようになりました。我慢できないほどしんどいとは感じていませんでしたが、黄疸や紫斑が現れるようになり、母に勧められてクリニックを受診しました。そしたら、ヘモグロビン値が5g/dLを下回っていて、大学病院で再生不良性貧血と診断がつきました。発症から5年後に、寛解状態から、LDH値が3,000U/Lを超えて上昇し、ヘモグロビン値も7.0g/dLを下回り、朝起きると茶褐色の濃い尿が出始めました。結果、大学病院へ戻り、再生不良性貧血PNH症候群と診断がつきました。
Dさん
風邪をひいた時に、これまでに感じたことのないような倦怠感を感じ、目の前が真っ暗になったり、チカチカするような症状が出始めました。それでも新しくしたメガネがあっていない程度にしか思わず、病気は考えていませんでした。その後もめまいがあり、最寄り駅までたどり着けず公園のベンチで横にならなければならないような感じになり、クリニックを受診したら、ヘモグロビン値は6.0g/dL程度に低下していました。驚いて大学病院を受診したところ、LDH値は2,500U/Lを超えていて、検査の結果、PNHと診断されました。
司会
診断当時の症状や経緯はさまざまですね。診断後はどのような状況でしょうか。
Aさん
診断当時は治療薬がなく、輸血が定期的に必要な状況でした。治療を始めたことで輸血の回数は少なくなり、気持ちは楽になりました。しかし、完全に必要なくなったわけではなく、貧血症状は残っています。
Cさん
治療により貧血症状は改善しました。また、治療するまでは意識していませんでしたが、治療したことで噛む力や飲み込む力がいかに低下していたか気づきました。
Aさん
私も飲み込みにくさ(嚥下困難:えんげこんなん)を感じることがあります。私の場合は、ヘモグロビン値が下がってくると、おにぎりのようなまとまったものを飲み込もうとするときに痛みを感じること(嚥下痛:えんげつう)もあります。飲み込む時に痛みを感じたら、調子が悪くなってきていると考えて、医師に伝えるようにしています。
Bさん
私の場合、治療により輸血は全く必要なくなりました。嬉しく思っています。
Dさん
お風呂上がりの時のたちくらみの回数は減ったと実感しています。私は、PNHを発症したのがちょうど大学4年の後期から就職の時期でした。体力に自信が持てず、定職に就くことに不安を感じていました。しかし、治療を開始し、症状が軽減したのと、自分の体と付き合い方が分かってきたことで、少し自信がついて、仕事の選択肢を増やすことができました。現在は、職場の近くに住居を置き、外勤の少ない部署への配属を希望するなど、調整をしながらですが働けています。
Cさん
診断当初は治療薬がなかったため、将来子どもを作ることは難しいだろうと漠然と考えていました。その後治療薬が登場し、症状は軽減したため、不安を抱えながら担当の先生に相談しました。何度も話し合い、リスクも検討した上でチャレンジする決断をしました。治療によりPNHの症状をコントロールしたことで出産することができ、感謝しています。
小原先生
皆さんのお話から分かるように、PNHの症状は多彩で、幅広いことが分かります。赤血球が壊される病気のイメージが強いPNHでは、貧血症状を思い浮かべるかもしれませんが、嚥下困難や腹痛、男性機能障害なども比較的よくみられる症状です。また、症状が長く続いている場合は、それが当たり前になっており、気づきにくいケースや、年齢によるものだと思い込んでいるケースも少なくありません。治療中の患者さんでも、体調の変化やつらさを感じたら、医師に積極的に相談することが重要です。
司会
PNHでの日常生活の中で困ることなどはありますか。
Dさん
私は、夏場になるとPNH症状が強くなる傾向があります。そのため、暑さ対策に気を遣っています。めまいやたちくらみが増えますし、疲れやすく、動悸や息切れもひどくなると感じています。
Cさん
私も同感です。温度と湿度が高いのがだめですね。暑いと体力の消耗が激しいため、夏は休息を多くとることを心がけて、とにかく疲れをためないようにしています。
Bさん
私は皆さんと異なり、夏だけでなく、冬も体調が悪くなることが多く、気温が低いと体がこわばって頭が痛くなったり、だるくなったりすることが多いです。年齢のせいかもしれませんが、貧血症状や疲労感を常に感じています。
Aさん
やはり貧血症状でしょうか。キッチンで料理をしている時に、急にめまいがして、しゃがみこんで回復するのを待たなければいけないことがあります。私の場合はヘモグロビン値が10g/dLくらいあるときは調子が良いのですが、下がってくるとほぼ1日中ぐったりしているといった感じですね。
Bさん
特に、スケジュールを詰めすぎて無理をするとひどくなりますね。症状がひどくならないように、スケジュールを詰め込みすぎない生活を心がけています。
Dさん
そうですね。スケジュールに余裕をもって生活すること、仕事のある平日は外出を控えることで、何とか金曜日まで体力を温存しています。体調が悪いと感じた時は食べて寝ることを大事にしています。
Cさん
私も寝不足は大敵です。あと、日常生活で気を付けていることは、やはり感染症です。我が家では娘がカメを飼っているのですが、私が飼育槽の掃除をしたところ、感染症にかかったことがあります。一般の方では問題にならないような感染源でも注意が必要だと思いました。現在は飼育槽の掃除は娘が担当し、私が近づかないように気を付けることで感染症を回避できています。
Bさん
そうですね。感染症には気を付けています。マイコプラズマ、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルスなど、流行している感染症には感染してしまうので、手洗いやうがいなどの感染症対策は徹底し、人混みに出る時はしっかりとマスクを着用しています。
Cさん
感染症の初期症状を放置して無理をして、1週間以上入院するという経験をしています。それ以降は、感染症を疑う体の異常を感じたら、早期に医師に連絡し対策するようにしています。
小原先生
PNHでは、気温や湿度の変化、多忙や寝不足などで身体的負荷が強くなった時に、溶血が多くなり、症状が強くなることがあります。患者さんは無理をしない生活を心がけていることが分かります。そうした心がけはとても大切です。また、感染症リスクについても認識して基本的な感染症対策を行っていくことも重要です。そうした対応を行っていても日常生活で困ることがある場合は、医師に相談し、病気のコントロール状況を確認しましょう。
司会
PNHという病気について、家族や社会の理解度はいかがでしょうか。
Cさん
PNHは外見上では健康な方と変わらないですし、病気自体の認知度は低いため、PNHがいかにQOLに影響するかを理解してもらうことはとても難しいと思っています。家族でさえ、発症当初は分かってくれませんでした。病院に付いてきてもらい、先生の話を一緒に聞いてもらってようやく理解できた感じでした。今では、体力を消耗していると感じたら、家族に状況を伝えて休息するようにしています。
Aさん
私も辛い時は、家事などは家族にお任せして、休んでいます。
Cさん
無理して乗り切ろうとせず、自分にとって心地よい生活リズムを意識するようになって、入院が必要になるような状況を回避できるようになりました。
Aさん
家族以外にも、仲の良い友達や頻繁に関わる人にはPNHであることを伝えています。その時には製薬会社が作成している冊子を活用しています。分かりやすく書かれていますので、わかっていただきやすいと思います。
Bさん
ストレスもためないようにしています。病気のことを知ってくれている気の合う友達と何気ない世間話をすることでストレスを発散しています。
Dさん
病気でふさぎ込んでいた時期もあったのですが、仕事を通して社会と繋がりを持てたと感じ、ポジティブな気持ちになれました。以前は、職場の上司には「外回りが必要な業務はできません」と、できないことを伝えていましたが、最近は「これならできます」、「建物内の作業であれば勤務時間が長くても体力はもちます」と前向きに伝えるように意識が変わってきました。
Cさん
人と関わること、話すことは私にとってはとても重要なことのようです。難病にかかったという現実を受け入れられない時期もありましたが、今はPNHの患者会であるPNH倶楽部とも繋がり、いろいろな人とお互いの気持ちを話すことで前向きに病気と向き合うことができるようになりました。
Dさん
身近な方々のPNHに対する受け入れはよいのですが、社会全体、例えば、電車などでは、健康に見えるだけに、貧血がひどくて優先席に座りたくても遠慮してしまうことは少なくありません。
Aさん
ヘルプマークを常に持参しておいて、辛い時は提示しています。希少疾患だけに容易ではないと思いますが、PNHという病気への認知、理解が広がればと思っています。
Bさん
病気であることを公言したくない、普通の方と同じように扱ってほしいという葛藤もありますが、辛いときは無理をしないようにしています。
小原先生
医師、メディカルスタッフに加えて、家族、地域社会とのコミュニケーションや繋がりが、PNHとうまく付き合い、心身の安定を保つ上での重要なポイントの一つになっているようです。PNHは希少疾病であることに加えて、外見上は健康に見えるため、社会の理解は十分でない部分もあります。一人で抱え込まず、症状の変化や不安に思っていることなども医師やメディカルスタッフに伝えてほしいと思います。PNHへの理解を広めていくような取り組みも必要だと考えています。