PNH患者さんと医師との座談会(後編)
ー PNHの課題と今後の診療で求められる コミュニケーション ー
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ー PNHの課題と今後の診療で求められる コミュニケーション ー
前編では、PNHの症状とPNHが日常生活に及ぼす影響について、4名のPNH患者さんとPNHの専門医である筑波大学の小原 直先生に話し合っていただきました。後編では、患者さんがPNHで感じている課題と今後のPNH診療で求められるコミュニケーションについて話し合っていただきました。
開催日:2024年8月24日(土)
開催場所:TKPガーデンシティPREMIUM東京駅丸の内中央
参加者:
▼医師
小原 直先生:筑波大学医学医療系 臨床医学域 医療科学(血液学)
▼PNH患者さん
Aさん:女性/73歳、PNHと診断されて23年
Bさん:女性/59歳、PNHと診断されて39年
Cさん:女性/47歳、PNHと診断されて21年
Dさん:女性/32歳、PNHと診断されて8年
司会
前編に引き続きよろしくお願いします。早速ですが、PNHの日常生活で我慢をしていることはありますか。
Dさん
PNHという病気ですから仕方がないと考えているのですが、仕事でここは頑張りどころの時や友達と思いっきりはしゃぎたい時でも、全力の60%ぐらいにセーブするように我慢しています。休憩時間が少ない状況や寝不足の状況が続くと、頭痛や息切れなどがひどくなり、何日もお休みしなければならなくなるので、余裕をもって行動することを意識しています。
Bさん
そうですよね。ついスケジュールを詰め込んでしまうと、溶血を起こしてしまって、やってしまったと反省することがあります。
Cさん
私の場合、ヘモグロビン値は8.5g/dLから9.2g/dLぐらいを行ったり来たりしており、治療する前に比べれば症状はかなり改善していますが、少し無理をすると動けなくなるレベルに症状が出てしまいます。私の体はそういうものなのだと受け入れて、やりたいことよりも休憩することを優先する生活をしています。
Aさん
私は年齢が70歳を超えていますので年齢のせいもあるかもしれませんが、常に疲労感があり、1日外出したら、1日休みが必要な感じです。もう少し活動的な生活がしたいと思いながらも、できる限り外出を控えています。元気だという実感はPNHを発症してからは、味わっていないような気がします。
Bさん
発症前は、テニスや登山なども楽しんでいました。今は、できていないのですが、もう少し倦怠感が減って活力がわいてくれば、昔のようには難しかったとしても、無理しない程度にチャレンジ出来たらいいなとは思っています。
Cさん
病気の治療を継続する以上仕方がないのですが、通院や、検査、診療、治療処置の時間を含めた診療時間はそれなりに負担です。今は、子どもが小学生に上がり、以前よりも手がかからなくなったので楽になりましたが、それまでは、受診日の私のスケジュール調整は大変でした。診療日は処置を含めると半日以上時間がとられてしまうため、子どものお迎えの時間に間に合わせるのに苦労しました。
Aさん
私は、通院は仕事だと割り切っています。それでも院内にいる時間はできる限り短くしたいと思っています。以前は院内で薬剤を受け取っていたので滞在時間が長かったのですが、院外で受け取れないかを医師に相談したところ、病院にいる時間を短くすることができました。
司会
いろいろと日常生活を調整されていることや感じていることがわかりましたが、そうしたことについて、医師やメディカルスタッフの方への相談やコミュニケーションの状況はいかがでしょうか。
Aさん
私は、医師や看護師とは何でも話せる良好な関係性を築けていると感じています。また、私自身もPNHに関してある程度勉強をしていますし、Webなどで新しい情報を入手しているため、主治医から一方的に指示を受けるというよりは、フラットに相談できるような感じになっています。
Dさん
私も主治医とは体調面で不安なことは何でも話せる関係だと感じています。しかし、診察時間は限られていますし、先生は昼食の時間もとれていないのではと思うような状況であるため、診察の待ち時間にどうしても聞きたいことはスマートフォンにメモしておき、優先順位をつけて伝えるようにしています。
Cさん
私は、最初に担当してくれていた主治医が4年ぐらい前に変わりました。次の先生はPNHの専門医ではないのですがとても勉強熱心な先生で、一緒にPNHに向き合ってくれています。分からないことをそのままにしないという姿勢で治療を継続できています。
Bさん
私は最近、主治医が変更になり、まだ3回ほどしか先生にお会いしていません。PNH治療歴は長くなり慣れてきているのですが、主治医が変わった時は、お互いの人間性を探り探りで確認し、信頼関係を築いていくことになります。
小原先生
今回、お集まりいただいた患者さんは、医師やメディカルスタッフなどの医療者とよい関係を築き、限られた診療時間の中で効率的にコミュニケーションを図る工夫をしていることが分かりました。我々も体調の変化や症状、検査値については注意深く観察していますし、患者さんからの情報を踏まえることで、病気の状態をしっかりと把握することができます。一方で、先ほど話に出ていたように、日常生活でPNHのために我慢していること、本当はチャレンジしたいと思っていることなど、患者さんの希望や価値観については十分に把握できていないこともあるように感じました。
PNHでは、2023年~2024年に複数のPNH治療薬が登場し、治療選択肢が増えました。そのことで、PNH治療は命を救うというフェーズから患者さんの生活の質(QOL)や価値観も考慮するという新しいフェーズへと変わりつつあると考えています。そうした変化に応じて、われわれ医療者と患者さんとのコミュニケーションも変化が求められていると考えています。
小原先生
治療方針を決めるときの医療者と患者さんのコミュニケーションは、一般的には、有効性と安全性のエビデンスに基づき医療者が治療選択肢を提示し、患者さんが同意する方法がとられてきました(インフォームドコンセントと呼ばれます)。治療法が限られている分野ではこのプロセスで問題ないと思います。一方、PNHのように、薬以外の治療法として骨髄移植や輸血があり、治療薬に関しても、軽症の段階で使用する薬や症状が強くなってから使用する薬、飲み薬、注射など、複数の選択肢がある近年では、各治療のエビデンスに加えて、患者さんのライフスタイルや価値観、希望、好みを合わせて医療者と患者さんが話し合い、一緒に意思決定していくことで、より好ましい結果に繋がると考えられるようになりました。このコミュニケーションやプロセスは、共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)と呼ばれています(図)。PNHにおいても、SDMの考えを取り入れたコミュニケーションが必要だと考えています。
司会
小原先生、ありがとうございます。患者さんの皆さんはどのように感じましたか。
Aさん
私は、自分でもPNHの新しい情報を入手して、私の希望も伝えながら先生と話し合って治療を検討していますので、すでにSDMに近いコミュニケーションになっています。私自身は満足度の高い治療選択ができていますし、多くのPNH患者さんにもそうなってほしいと思います。
Bさん
すばらしいと思いました。先生と一緒に意思決定していく試みが実現できれば、納得度は高まると思います。一方で、実際に話し合いをする時間をどのように作るのかという点は課題だと思いました。
Cさん
治療を変えるということは大きなことですし、変えることへの抵抗感もあるので、そうした不安も伝えた上で、日常生活にPNHが及ぼしている影響や治療に対する希望を加味した納得のいく意思決定ができることはとてもよいことだと思いました。
Dさん
結婚、子育て、職場や職種の変化など、各ライフステージで、重要視することや価値観は変化すると思いますので、節目、節目でも私の希望を伝えて、先生と一緒に適切な治療を検討できれば、理想的だと思いました。
小原先生
SDMを取り入れたコミュニケーションでは、例えば、旅行がしたい、少しでも趣味の登山にチャレンジしたい、もう少し体力に自信をもって仕事がしたい、病院での拘束時間を減らしたいなど、やりたいことや我慢していることやライフスタイルについて、まずは医療者と患者さんが共有できていることが必要になります。患者さんからも伝えてほしいと思いますし、我々医療者は患者さんへの問いかけの方法を変えていく必要があると考えています。また、限られた診療時間内で、共同で意思決定するコミュニケーションの時間をいかに確保するかが課題です。メディカルスタッフとの連携など仕組みも検討していきたいと思います。本日は患者さんの生の声を聞けてとても参考になりました。ありがとうございました。
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